“私は、絵本づくりでありますので、”2009年09月26日

 『雑草のくらし-あき地の五年間-』
           甲斐信枝 福音館書店 1985 (写真左)


この絵本の迫力はすごいです。

5年間にわたる空き地の雑草の記録。歴史。
ぱらぱらぱらとめくれば、1分もかからず眺められる歴史ですけど、
じっくり観察すれば、いくらでも眺めていることができます。

この絵本に出会ってから、
ふだん、なにげなく通りすぎていた空き地や道ばたの雑草たちを意識するようになりました。

私の今の観察地は、荻窪駅近くの駐車場の片隅。
阿佐ヶ谷駅近くにあった、取り壊されたマンション跡地は、2年近く更地で、それこそ、劇的な雑草戦国時代絵巻が繰り広げられていたのですが、今はもう、新しいマンションが建ってしまいました。
荻窪の駐車場脇には、ネジバナが群生していて、その数が年々増えていくのが楽しみなのです。
駅へと急ぎ歩きしながら、立ち止まることなく、横目で雑草の様子を見て通り過ぎるばかりですが、ちょっとした発見があれば、そこに季節の変化を感じています。

田んぼや畑、山も広い空も、めったにお目にかかれない生活ですから、私にとっては小さいけれど大きな「自然」が、その駐車場の片隅の雑草たちなのです。

その絵本『雑草のくらし』の制作について語られた、1985年放送のNHKラジオ人生読本「雑草のくらしを見つめて」や、福音館書店の「こどものとも」「かがくのとも」の折り込み付録に書かれた「作者のことば」を集めたエッセイ集が出ました。

 『小さな生きものたちの不思議なくらし』
           甲斐信枝 福音館書店 2009 (写真右)

雑草だけではなく、アシナガバチやコガネグモ、モンシロチョウなど、身近なだけに見過ごしてしまう小さな生きものたちを、じっくりどっぷり興味と好奇心いっぱいに観察し、その一生を物語として描いたたくさんの絵本について語られています。

“私は、絵本づくりでありますので、いきおい子どものころの気持ちを掘り返す必要があります。そして掘り起こして、反芻して、反芻して、いったい、私は子どものころに何を欲しがっていたのであろう、どんな気持ちで暮らしていたのであろうということを考えます。そういうときに登場してくるのが、いつも草なんです。” (P,42)

甲斐信枝さんの、絵本づくりの原点は明確です。

“絵本の作り手として私が大切にしているのは「対象物への興味と愛情から発して対象に近づき、そのものから受けた驚きや感動を、絵と言葉によってお子さんにつたえる」ことです。” (P,151)

そして、科学絵本に対する姿勢も明確です。

それらのごまかしようのない思いは、絵本を通して読者に伝わります。
子どもだけでなく、大人にも、伝わります。

絵本制作のエピソードを読みながら、たとえば、畑いっぱいのカラスノエンドウが、小さな音をたててその実のさやをはじいて種を飛ばす様子は、絵本で見る以上の迫力で、その大群落の中に座って写生をしている甲斐さんの姿が、つめくさの灯りの中にいる宮澤賢治の姿とダブって見えてきたりしました。

そんな様子を知ると、あらためて甲斐さんの絵本を開きたくなります。

そこはさすが!福音館書店。ということで、ハードカバーの絵本となって発売されました。美しい函入りセットもあります。

 『草花と虫たちの絵本 甲斐信枝の世界(全6冊)』 2009
 『ひがんばな』 1981
 『こがねぐも』 2003
 『ぼくはたね』 2009
 『あしながばち』 2009
 『みのむし』 2009
 『きゃべつばたけのいちにち』 2009

これらの絵本は、福音館書店のHPでは品切れ重版予定なし、とありますが、りとるにはまだありましたよ。

ますます、甲斐信枝さんが好きになりました。

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