ふたりの私2012年06月30日

静かな物語でした。

 『ブルックリン』 コルム・トビーン 栩木伸明/訳
                        白水社 2012/5 (写真)

1950年代前半。
アイルランドの田舎町エニスコーシーから、
アメリカのブルックリンへと移り住んだ若い娘アイリーシュの日々。

とはいえ、
大西洋を横断する船旅を経て、
大都会ブルックリンのデパートで、
店員として働きながら、
まったく見知らぬ場所で生き始めた娘の生活が、
そんな静かで穏やかなわけがありません。

登場する、
あちら(エニスコーシー)とこちら(ブルックリン)の人々もまた、
それぞれがそれぞれの人生を抱え、
アイリーシュの日々と交差していきます。

でも、語られるのはアイリーシュの日々。

交差する人の人生の事情や思惑は、
アイリーシュを通したものなので、
ほんとうはどうであったのか、
アイリーシュの思い違いや思い込みもあるのではないの?
と思いながら、
それぞれの人を掴もうと、
想像し、思いを寄せ、
物語は自然と豊かにふくらんでいきました。


静か。
で、
熱く深みのある物語でした。



エニスコーシーとブルックリン。

そのどちらの私(アイリーシュ)もほんとうの私(アイリーシュ)なのに、
どちらか一方は幻であるかのように思える感覚。




私も、そんな感覚を繰り返しながら、
あちらこちらの場所で生きてきたことを思いました。


そして、これからは?




アイリーシュも私も、
途中の物語の中にいます。