ことばはいらない2010年01月21日

絵本『かいじゅうたちのいるところ』 (モーリス・センダック 神宮輝夫/訳 冨山房 1975)は、私にはあまりにも定番な絵本なので、紹介するのを忘れがちです。
が、
今でも、
だれかれかまわずオススメしたい絵本です。

その『かいじゅうたちのいるところ』が映画(実写!)になると知ったときには、
驚きを越えて、ため息が出ました。

今ではなんでもありな映像化。


その後は、
「この絵本、映画になるんですよぉ~」と、
絵本ともども紹介していましたら、
いつの間にか、映画はもう始まっていました。

そして「見た!」という人の文章を目にして、
見なくていいや…と思ったのですが、
やはり「見た!」という知人の感動ぶりを見て、
私も見よ!と思い立ちました。  (写真はちらしの一部)

映画では、
絵本に描かれていない少年マックスの生活が描かれています。

そのネタばらしと分析を読んで見る気を失くしたので、
用心しいしい映画を見始めました。
が、
知人が言っていた通りに、
そんな事情や状況は説明ではなく、淡々と描かれ(映し出され)ているだけでしたので、見るもの(私)は自由にマックスという少年の心情を思い描き、その景色の中に立ち入ることができました。


そしてたどり着いた“かいじゅうたちのいるところ”

かいじゅうたちと出会い、
自分はナニモノであるかを語るマックス。
その、まるであふれ出るようなことばに、
私は、マックスの孤独を感じてしまいました。

ことばは、相手に「私」を伝えるものであるけれど、
「私」を偽るものにもなるし、
相手を傷つけるものにもなる。

でも、ほんとうに伝えたいことを伝えるときや、
それを受け止めて、
お互いをわかりあえたときには、
ことばは、そんなにはいらないんだってことを、
やがてしみじみと、じんわりと感じて、
私はマックスを見送りました。


私は、ね。


そしてお母さんの表情に、不覚にもうるうる…。

ほんまにもう!男子っていうやつは。。。


絵本、知らない人もぜひ。
知らなくたってぜんぜん平気。
それはだってほら、人のココロの根っこの物語ですから。

『かいじゅうたちのいるところ』は、
そんな絵本で映画です。

と言えてうれしい。 

aooo! aooo!! aooo!!!

ZAZIE2009年10月26日

「南極料理人」を観た映画館で、
「地下鉄のザジ」も上映していました。

ザジ、といえば、地下鉄の!

だから、

 『地下鉄のザジ』 レーモン・クノー 生田耕作/訳 中公文庫 1974

この本も、若い頃に読んでいて、
少女ザジの魅力にため息をついたことを覚えています。

映画化は1960年とのこと。

一度、ビデオを借りて観たような気がするのですが、それもずいぶん前のことでよく覚えていません。

作品生誕50年のお祝いの【完全修復ニュープリント版】として再上映。

おっ!と思って観る機会をうかがっていましたので、
神保町へ本の仕入れへ行く途中、
新宿途中下車して観て行くことにしました。

観客はまばら。
その中で、おじさまおばさま率が高いのは、
むかしなつかしな映画だからでしょうか?

ヌーヴェル・ヴァーグも言葉遊びも、
パリの町並みもわからないながら、
ザジの小生意気少女ぶりが愉快で、
このたびは、ため息ではなく、
わくわくうふふな少女ザジとの再会となりました。

そして、ザジを取り囲む大人たちのへんてこぶりにも意識がいったのは、
私が少女ザジではなく、
どっぷり大人の側にスライドして生きているからなのでしょう。

若い頃にはよくわからなかった「大人の事情」も知るようになり、
ちらちらと、
ザジの周囲に見え隠れする「事情」も察知できるようになりました。

一見、ひっちゃかめっちゃかだけに見える騒動の中に、
当時の時代背景や社会の様子も伺えます。

パリに行った事があったり、
フランス語がわかっていたら、
もっと面白く観ることができる映画なんでしょうね~。

残念!

それでも、映画を観てから数日たっている今でも、
映画の中の多くの場面を思い出すことがあり、
そのたびに、
晴れ晴れとした気分になります。

それぞれのシーンがとても印象的。

なかでもエッフェル塔に上り、
螺旋階段を駆け下りながら会話するシーンは、
私もやってみた~い!
でも無理~!! (>。<) と思って何度思い出しても楽しめます。

ザジのオレンジのセーター姿、
チラシ(写真)ではわからないけど、とてもかわいいです。

瞬間瞬間に大人になっていく少女・ザジですが、
映画の中のザジは、
永遠に少女ですね。

小生意気でいとおしい、少女のままです。

南極だろうが我が家だろうが2009年10月15日

「南極料理人」やっと観ました。

上映15分前。
開場5分前に到着。
で、
整理番号010。

全席自由。

観客が多かろうが少なかろうが、
整理番号1番から10番の人が最初に入場し、
10番以降の私の後の人はわずかに一人。

それでも本編が始まるまでに、
あと、10人ぐらいぼつぼつと入ってきました。

私が座った座席の横にはだ~れもいません。
なぁんて贅沢な映画鑑賞。
でも、ここまで人が少ないとちょっと淋しい。
男女のカップルの二人が、
一つ座席を空けて座っているのを、後から眺めているのも、やや、淋しい。
もしかしたらただの友人・知人関係の二人なのかも…(^。^)
それとも喧嘩中?(゜o゜)
喧嘩してたら二人で映画は観ぃひんやろ~\(~o~)/
などと、妄想しているうちに「南極料理人」始まりました。


だいたいいつも、
映画の前知識はほとんどなしで観るので、
いきなり、南極での極限的事態発生か?と緊張し、
こんな、深刻な映画だったのね?と思いましたが、
そう、でも、ありませんでした。

南極という過酷な生活状況の中で、
複数の男たちが、食べる食べる。
食べる。
そして、その料理を作る男の物語。

物語。
っていうか、姿。

男たちは、
時々裸になります。

極寒の南極で。

仕事(観測)も、もちろんしているのですが、
それより食べることが大事。
食べることは生きること。
生きているうえでの仕事なのだからと、
理屈ではなく、説明ではなく、
食べる男たちの姿が語ってくれました。

裸になることもまた、生きること、生きていることの実感なのかもしれません。

いや、そこのところはよくわかりませんが。

出てくる料理は、どれもおいしそうです。
むしゃむしゃがつがつもぐもぐずるずる。
中には行儀の悪い姿もありますが、
食べる男たちの姿はほほえましく、
おいしさの味や匂いまで伝わってきそうなほどでした。

いいなぁ。
ごはんを一緒に食べるのって。

けして、仲良しこよしな男たちではないのですが、
みながそろうのを待ち、呼びにいき、
待ち、
そして一緒に食べる姿が、
なんだかすごく美しいことのように見えてきました。

我が家でも、
一緒にごはんを食べることについて思うことがあったばかり。

そして今日もごはんを食べます。

作るのヘタでも、
おいしいごはんを、
「いただきま~す。」

キュート…2009年09月07日

   “シーツの波をかきわけて
      タンスの崖をよじ登り
  クッションの雲を越えて、
    キミに会いにいく。”

チラシの人形たちとコピーにココロウバワレて、映画を観てきました。

 「屋根裏のポムネンカ」 (写真はチラシとパンフレット)

“チェコからやってきた、待望の長編人形アニメーション
 秘められた屋根裏の世界が幕を開けるー。”

“とびきりキュートな物語がここに誕生です。”

チラシの言葉通り、
個性的でかわいらしい人形たちが、
屋根裏の旅行鞄の部屋の中で穏やかで賑やかな朝を迎え、
機関車が走る屋根裏の街の、
それぞれの職場へと出かけて行きます。

朝食の仕度をし、片付け、部屋の掃除をする、
みんなのアイドル・ポムネンカが、
悪の親玉に狙われているとも知らずに…。

と、そこまでは楽しめていたのですが、
悪の親玉と、その手下の描かれ方に、
うっ!ときて、
ギョッ!として、
ひぇ~!と瞬間目をつぶり、
うぇぇぇぇ~!と顔をしかめる展開と場面に、
ここにはきっと深い意味や、揶揄や、比喩、暗喩、隠喩…があるだろうと思われ、
顔や身体はやや斜め向きでスクリーンを直視しない体勢になりつつも、
ココロは物語に引き込まれ絡め取られていく感覚となりました。

ハラハラドキドキの結末はハッピーエンドで、
ポムネンカを救出する旅を続けた仲間たちが、
無事に救出したポムネンカを囲んで、
賑やかに朗らかにお茶会をする、
それこそ、とびきりキュートな場面となるのですが、
エンドロールが始まっても、
どこかどうも釈然とせず、
場内が明るくなっても、
15人ほどの観客はみな戸惑いの表情でしばし立ち上がらず…。

私も、一つ座席を空けて座っていた友だちと無言で顔を見合わせ、
やがて友だちから「大丈夫でしたか?」と聞かれると、
「大丈夫」と答えたものの、
いや、どうなんやろ、
何がどうで「大丈夫」なんやろ…と自問するしまつ。

う~ん。

オソルベシチェコアニメ。

友だちが買ったパンフレットを先に借りて帰り、
じっくり読むもよくわからず…。
でも、監督のインタビューで、
ポムネンカの気の強さについて聞かれると、

 “そう見えるのは、彼女が「本当にこわい」という感情的なことをなかなか理解できないからです。つまり無知なんですね。”

とあり、
ああ、やはりチラシの印象にとらわれすぎていたかも…と思いました。

そして、チェコやチェコアニメ、文化についての知識不足を実感。

ここ最近、チェコや東欧の雑貨や絵本が若い人を中心に流行っているのですが、
キュートやカワイイだけを求めて満足しているのはもったいないことなのかもしれません。

私は、チェコビール、おいしい! って思うけど、
そこを、チェコを知る入り口にして。

チェコアニメ「屋根裏のポムネンカ」は、
その入り口の、大きな扉のような気がしています。

空にいる人2009年06月29日

数日前、見るとはなしのテレビを、めずらしくつけっぱなしにしていたとき、ふいに現れた(ように思えた)画面にクギヅケとなりました。

画面は映画の宣伝で、男の人が綱渡りをしている荒い画像が流れていました。

とたんに、「綱渡り男!」 と、叫んでしまいました。

「映画になったの?なってるの?なってたの?映画、やってるの?いつ?どこで?」

瞬時にいろんな疑問が生じました。

「綱渡り男」は、数年前に、表参道のクレヨンハウスで見つけた絵本に出てくる男のことです。
その内容に衝撃を受け、その場で絵本を何度も読み返しました。

正確には、

 『綱渡りの男』 モーディカイ・ガースティン
          川本三郎/訳 小峰書店 2005

今はない、アメリカニューヨークの世界貿易センターのツインタワー。
完成間近だった1974年8月7日、
そのタワーの間にワイヤーロープを張り、綱渡りをした男の物語。

実話です。

えっ、ほんとに?

そのときの衝撃があまりに強かったせいか、どうにも現実感がなく、そんな絵本を見つけたことも、綱渡りをした男のことも、誰に話すこともしませんでした。
その後、別の書店で絵本をみつけて、ああ、やっぱりほんとのことやった。と、妙に一人で安堵したのを覚えています。

その「綱渡り男」が実写でテレビ画面に映っています!
しかも映画!ドキュメント!
ほんとうのほんとうに綱渡りをしたご本人が、登場し、当時のことを語っているようなんです。

こぉ~れは、観ないと!

調べると、新宿のテアトルタイムズスクエアで公開中。
すぐに観に行けると思ったものの、新宿に行くのに時間が合わなかったりで、あきらめること3回。
昨日、ちょっと無理して時間を作って、やっと観てきました。

 『MAN ON WIRE』 (写真はパンフレット)

売店には絵本『綱渡りの男』も置いてあって、なんだか知り合いに会ったような感じで嬉しくなりました。

映画は、すごかったです。

いろんな受けとめ方ができると思いますが、私は、ただもう、綱を渡る男が、その空にいる姿に圧倒されるばかりでした。

協力(共犯)した友人や恋人も、当時の様子を語るのですが、その表情が、またとても印象的です。

綱を、あっちからこっちへと、ただ、歩いて渡るだけじゃないのですよ…。

なんなんでしょうね。

その映像を観るだけで、世界がぐらっと揺れてきます。