表紙は物語る2010年10月12日

岩瀬成子(いわせ じょうこ)さんは、
ずっと気になっている児童文学作家さんです。

絵本からYA(ヤングアダルト)文学まで、
幅広く多くの著作があり、
岩瀬成子・作 の本を見つけるたびに読んできました。

が、どの本がどんな物語だったか、
申し訳ないことにどうにも印象に残りません。
なので、他人に紹介したこともめったにありません…。

読んでいる最中は、
児童文学らしからぬ(と思える)、
物語、というか、
描写、というのか、
筆致、なのか、
に、ぐいぐいと引き込まれ、
読了後は、だいたい呆けた気分になります。

児童文学にありがちな、感情の起伏、熱さ、熱、みたいなものが、
ないわけではないのですが、
いつも、平熱、というか、常温、な感じがします。

それは、大なり小なりの出来事が、
どれだけ熱を帯びていたとしても、
あるいは、
どん底の底に落ちたときのように熱を失くした感情をもたらしたとしても、
その出来事自体は淡々と過ぎていき、
日常(人生)の中の一つのエピソードとしてやがて収束していく、
という現実を、
そのままに描かれているからではないかと、
ヒソカに感じているのですが。

ただ、それを「リアル」と言うのとは、ちょっと違うと思っています。

「リアルな子どもたちの物語」と謳われ、
(その時点での)現実を描いた児童文学はたくさんありますが、
そういうのではなくて、
もっと普遍的な、
どの時代の子どもたちにも共通するような、
出来事、というよりは、そこから生じる感情や思考が、
出来事の違いや展開の違いはあっても、
ああ、そうだ、
私もまたそのような子どもだったと感じさせられ、
幼くて嫌な子どもでませていて、
大人の世界を背伸びして垣間見て、
大人はいやだねぇ汚いねぇと思ったりした私を見つけたりするのです。

そんな岩瀬さんが描く、
平熱で常温な物語が癖になっているのかもしれません。


ところで先日、
岩瀬さんの新刊が今年の初めに出ているのを知りました。

 『オール・マイ・ラヴィング』 岩瀬成子 集英社 2010/1 (写真)

お好きな人ならすぐにわかるんでしょうね。
タイトルがビートルズの曲であることが。
そして、本の表紙を見れば、これまたすぐにわかります。
この本は、ビートルズに「(恋の)矢」を放たれた少女の物語だと。

表紙・装丁は和田誠さん。

実はこの本、図書館で検索すると一般文芸書の棚に蔵書ありとあったので、
児童文学ではないのか…と思って探したのですが、
本を手にとり表紙を見て納得しました。

そして私はビートルズが得意ではありません…。
ので、読み始めるのにややエネルギーが必要でした。

物語は、表紙の絵が物語っている通りです。

CDではなく、レコードを前に頬杖をついている少女。
これで時代もわかります。

ビートルズが日本にやって来た頃の、
ビートルズに恋し、焦がれ、孤独にあえぎながら、
大人の世界を覗いたり足を踏み入れたり戻ったりしている少女(中学生・14歳)の物語です。

当時の、熱い熱いビートルズ熱。
その熱を一身に受け止めた少女の日々が、
それでもやっぱり平熱な感じに読み取れるのは、
岩瀬さんの描写ならでは…と思いつつ読みました。
熱い熱は、少女をとりまく家族や友だちやご近所さんとの日々によって冷まされているようでした。

あの時代、一人の子どもの世界には、
限りのない大人や子どもの事情、状況、
そんなものをひっくるめた「世間」、といったものに満ちていました。

家族と学校、ときどき塾、しかないように描かれる、今の子どもの世界とは大きく違っています。
(携帯電話もありませんしね…)

そんな時代に思春期を向かえていた少女は、
抱え込んでいた熱を、最後に一気に放出させます。

その展開に驚きましたが、
でもそれが、この本が児童書ではない理由なのかも、と思って読了しました。



懐かしい、昭和な時代を堪能できる青春小説です。

昭和の物語…。

それも表紙を見てわかったので、
読み始めるのにエンヤコラ、でした。

昭和を懐かしむのも、苦手なんですよね…。


それにしても、和田誠さん。すごいです。

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